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誰にだって、苦手なものとか怖いものはあるじゃない?
あたしの場合、一番苦手なのが、イワユル「お化け」ってヤツ……。
で、二番目に苦手なものが――。
早朝――。
まだ完全に陽も昇りきっていない、午前4時50分。
ユラユラユラ……。
「ぅん……」
あたしは半分、夢見心地のままベッドから起き上がって、目を擦る。
グラグラグラ……。
ベッドが左右前後にと、ぐるぐる廻る。
「っ! ……や……ちょ…やだっ……地震!?」
今日は、昨日まで仕事だったこともあり、いつもの撩の部屋ではなく、自分の部屋で寝ていたためひとりだったことが、殊更不安を募らせた。
グラグラグラッ!!!
更に揺れは酷くなり、ドレッサーの上の化粧品がガチャガチャと耳障りな音を立て始める。
「や……やだぁ……リョ、リョオ〜〜〜〜!」
そのまま布団を被ってうずくまる。
自分でも情けないとは思うけど、怖いもんは怖いんだから、仕方がない。
グラグラグラ……ッ!
バサバサバサーーーー!!!
びくぅ!!!
何か物が落ちてくる音に、布団の端から周りを覗くと、本棚から本が数冊、落ちていた。
「ひーーーん(泣)」
それほど大きな「地震」なのかと思うと、もう怖くて息さえ出来ない。
未だ続く揺れに、ひとり、布団にくるまってガタガタ震えるしかなかった。
と、その時――。
――ふわり。
何かに――いや、『誰か』に優しく、布団ごと包まれる気配がしたかと思うと、
「お姫様、わたくしめをお呼びですか?」
ちょっとオドケタ――でもとても暖かい、聞きなれた低い声が落ちてきて。
そのまま、そっと抱き上げられ、頭の部分だけ布団を剥がされた。
『誰』か?――なんてことは、言うまでもなくて。
「撩ぉ……」
とその名を呟けば、薄暗い中でも正確にあたしの瞳を覗き込んで、
「ワリ……ちょい、遅くなったな。怪我ねーか?」
なんて、心配そうに聞かれれば。
「〜〜〜〜〜っ」
大丈夫! ――っていつも通りに強気で答えたいのに。
そんな優しい瞳で見られたら、いつもの強がりなんか、どこかにいってしまって。
ポロポロポロポロ。
溜まっていた涙が、次から次へと頬を濡らしていく。
「おいおい〜…ガキじゃあるめーし、こんな地震くらいで、何も泣くこたねぇだろが〜〜〜?」
少し呆れたような、撩の声に、更に涙が溢れて止まらない。
「だ……っく…だって……なんか、ガチャガチャいってるしぃ……」
嗚咽混じりでも、なんとか言葉を発し、ドレッサーを指差す。
「んー?」
撩は、そんなあたしの背中を、布団越しにポン、ポン、とまるで小さな子供をあやすように、優しく叩いてくれる。
「ほ、本棚の……ひっ…く…本は……落ちて、くるし…」
「ハイハイ…」
撩の、リズムを刻む手の暖かさが、布団越しでも伝わってきて。
「そ、それに……」
「それに?」
ことん、と彼の胸に頭を預けると。
トクトク…と刻まれる彼の安定した心音に、安堵する。
「…………」
少しだけ冷静さを取り戻したあたしは、自分の言おうとしていた台詞が酷く恥かしくなって、言い淀んだ。
「……ん?」
でも。
撩の両手が、あたしの両頬に添えられ、上を向かされると。
「……」
「……香?」
その、漆黒の瞳に見詰められると。
――もう、あたしに逃げ場は、ない。
「りょ……撩…が……」
「俺が?」
急かすような口調に乗せられ、それでも照れの隠せないあたしは、撩から無理矢理視線を外すと小さく小さく呟いた。
「……撩が…と、隣にいなかった…から……」
やっとの思いで言った台詞に、撩は満足気に頷くと、
「んー。素直でよろしい! ……ま、俺としてはもちょっと色気のある答えが欲しかったケド」
なんて、いつものフザケタ台詞に。
「……どうせ、色気なんてありませんよー、だ」
『いつも』という日常にナゼカ酷く安心できて、あたしも『いつも』通りに切り返す。
「そんなこたぁないぜ? 香ちゃんの『アノ時』の表情ってば、すっげーセクシーだしぃ?」
「なな、なによっ! 『アノ時』って/////!?」
「ふーん……。知りたいんだ?」
意味深な台詞に顔を真っ赤にして撩から離れようとするあたしを、男はニヤリと笑って逆に強く自分に引き寄せた。
お腹に『当たるもの』に、『これから』の彼の行動を予測して、ゾワリと背中に悪寒が走る……。
「――んじゃ、地震も治まったことだし、香チャンはこのままオレの部屋に『お持ち帰り〜』ってことで♪」
よいせっ……なんて大して力を使ってる訳でもないのに、大袈裟にあたしを布団ごと抱き上げる。
『お持ち帰り』って……。
あたしはすし屋の『手土産』か?
……なんて心の中でツッコミつつも、いつの間にか地震が治まっていたことにすら気付いていなかったことに、自分にとってのこの男の存在価値を気付かされる。
「まぁ……先刻は一応、心配して来てくれたし、ね」
あたしは半分諦めにも似た気持ちで、撩にも聞こえない位の小声で呟くと、自ら撩の首に腕を回してみせた。
「――お? 珍しく『乗り気』じゃん?」
嬉しそうに、にっこりと微笑むこの男に。
「では! 香ちゃんの『ご期待』に添えるよう、この冴羽撩、精一杯尽くさせて頂きまーっす♪」
こんな時に、甘い言葉のひとつも囁けない、ロマンも何もあったもんじゃない男に。
心底、惚れているのは、他でもない自分で……。
「ハハ……お、お手柔らかに……ね」
自分ばかりが好きみたいで、ちょっとだけ口惜しいけれど。
「俺がお前に対して『手加減』なんて出来るわけ、ねーだろが…」
でも。
時々垣間見せてくれる、こんな『本音』が嬉しくて。
「バカ……」
その、『世界一安心できる場所』に、顔を埋めた――。
何処よりも、誰よりも安心できるのは。
彼の隣と。
彼の、腕の中だけ――。
二番目に苦手だったものは。
撩が隣に居てくれさえすれば。
二番目に好きなモノに、変わった。
――え?
一番は何か、ですって?
それは、ヒ・ミ・ツ

Fin
〜あとがき〜
「何か」あった時、が隣に「誰か」がいるって安心できますよね。
家族でも友人でも、他人でも。
それが愛しい人なら尚更かな、と思って書いてみました。
普段、苦手なものも、好きな人が一緒なら、怖くないしね。
それにしても、地震は怖い〜(←超苦手)
2003. 9.27 脱稿

